日合商のセミナー=10月17日= | 日本合板商業組合【日合商関西支部報】

勉強会・研修会

2022年11月4日

勉強会・研修会日合商のセミナー=10月17日=

日合商のセミナー=10月17日=

『最近の内外経済情勢と関西経済』
講師は高口博英日本銀行大阪支店長

10月17日(月)に中央区のマイドーム大阪で開かれた日本合板商業組合関西支部(支部長・丸敏幸氏)の役員会終了後に講演会が催され、参集した60名超の会員らが熱心に聴講した。講師は日本銀行大阪支店長の高口博英氏、テーマは「最近の内外経済情勢と関西経済」。

担当委員長の久我洋一理事(㈱久我社長)の司会で始まったセミナーの骨子は次の通り。
Ⅰ.当面の金融経済動向
(1)世界経済
(2)日本経済
(3)関西経済
Ⅱ.今後の課題
(1)DX(デジタルトランスフォーメーション)
(2)脱炭素化
(3)ライフサイエンス(先端医療・創薬)
(4)物価・賃金・労働生産性
(5)2025年大阪・関西万博
Ⅲ.今後の注目点(まとめ)

講師の高口大阪支店長は豊富なデータを示しながら60分間、テーマに沿って講演した。

Ⅰ.当面の金融経済動向
(1)世界経済の情勢変化
■新型コロナやウクライナ情勢が世界経済に大きな影響を及ぼしている。世界経済は2020年度前半に新型コロナにより大きく落ち込んだが、各国の財政金融政策やワクチン接種の進展により需要は回復した。一方で半導体不足や米国の人手不足など供給・物流制約が顕在化し、足もとは中国のゼロコロナ政策も加わって、国際商品市況は大きく上昇した。22年入り後はウクライナ侵攻が発生したことから、国際商品市況の上昇に拍車がかかり、世界中でインフレ圧力が高まった。海外中銀はインフレ抑制のため利上げを行い、為替円安の要因ともなっているが、世界各国では利上げによる個人消費や企業収益、設備投資の下押しのリスクが意識されている。世界中でエネルギー・食糧などを含む経済安全保障の問題が台頭し、米中対立もあって、これまでのグローバル化の流れは変容しつつある。このような動きがみられるもとで、世界的な脱炭素化やデジタル化が同時並行的に進んでいる。わが国経済や企業は、こうした世界経済の大きな情勢変化への対応が求められている。

■世界経済の成長率は2020年4~6月期が戦後最大の落ち込みだったが、その後回復。世界経済の成長率見通しは2022年3.2%、23年2.7%、24年3.2%となっている。日本は22年1.7%、23年1.6%、24年1.3%。米国は22年1.6%、23年1.0%、24年1.2%。中国は22年3.2%、23年4.4%、24年4.5%(IMF見通し)。

■ウクライナ情勢の世界経済に及ぼす影響をみると、エネルギー・食糧に関する問題が大きい。欧州はエネルギーをロシアからの天然ガス輸入に大きく依存しているほか、食料品・エネルギーの消費に占める割合が高いインド、ブラジルなどでは国際市況上昇の影響を大きく受けている。

■国・地域別にみると、米国の実質GDPはコロナ前の水準を回復し、高いインフレ圧力とFRBによる金利引き上げの中でも、個人消費を中心に景気の足腰は今のところ確りしている。ただ、金利上昇の影響等から住宅投資などでは需要鈍化が窺われ始めている。

■欧州の実質GDPもコロナ前の水準を回復したが、ロシアへのエネルギー依存の問題やインフレ圧力などもあって、先行きの下振れリスクが意識されている。実際に個人消費を顕す指標をみると、このところ回復の勢いが鈍化している。

■中国ではゼロコロナ政策が続き、消費関連指標も回復の力強さをやや欠いている。また、中国ではGDPの約2割が不動産関連だが、所得格差是正のために不動産業に厳しい規制が課せられ投資が勢いを失っている。

■最近の主要国の金融政策
・ FRB(米国・連邦準備理事会)=政策金利を+0.75%引き上げ(3.00~3.25%に。5会合連続で引き上げ)
・ ECB(欧州中央銀行)=政策金利を+0.75%引き上げ(0.75%に。2011年以来11年振りの引き上げをした7月に続き2会合連続で引き上げ)
・BOE(イングランド銀行)=政策金利を+0.5%引き上げ(2.25%に。7会合連続で引き上げ)
・日本銀行=政策金利(短期▲0.1%、長期0%程度)とETF、J-REITの買い入れ(年間約12兆円、約1800億円)を継続

(2)日本経済
■展望レポート(2022年7月)
日本銀行の経済物価見通しを示した「展望レポート」の概要をお示しすると、わが国のGDPは、ウクライナ情勢等を受けた資源価格上昇による下押し圧力を受けるものの、感染症や供給制約の影響が和らぐもとで回復していく。その後は所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まるもとで潜在成長率を上回る成長を続ける。消費者物価(除く生鮮食品)は、本年末にかけてエネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により上昇率を高めたあと、エネルギー価格の押し上げ寄与の減衰に伴い、プラス幅を縮小していく。変動の大きいエネルギーを除いたベースでは需給ギャップが改善し、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まっていくもとで、プラス幅を穏やかに拡大していく。

■物価上昇が続いているが、足もとでは企業物価を押し上げている輸入物価の上昇のうち半分程度が為替円安の影響となっている。国際収支については、以前はモノの取引の貿易収支、海外投資からの収益の所得収支のいずれも黒字という時期が長く続いたが、ごく足もとではエネルギー価格の上昇を受けて貿易赤字が拡大し、所得収支の黒字を上回って、合算した経常収支も赤字になっている。

(3)関西経済
関西経済も日本経済全体と同様の動きとなっている。輸出は緩やかな増加傾向にある。設備投資は全国を上回っている。個人消費(サービス・財)は2020年4~6月期を底に緩やかな回復傾向にあるが、まだコロナ前の水準にまでは戻りきれていない。

吉野石膏株式会社

Ⅱ.今後の課題
(1)DX(デジタルトランスフォーメーション)
日本は、デジタル・インフラの面では、先進国の中で遅れている訳ではない。ただ、各国の行政手続きオンラインサービス利用率では日本は10%以下、フランス60%弱、イギリス50%弱、ドイツは20%弱と改善の余地があり、喫緊の課題である。また、世界のデジタル競争力ランキングで日本は29位。1位デンマーク、2位アメリカ、シンガポール4位、中国17位、ドイツ19位。日本は技術力の評価は高いが、全体として低位にある理由をみると、DXを担う人材、規制の枠組み、事業変革の機動性などの項目で、上位各国より見劣りしており、改善の余地がある。

(2)脱炭素化
脱炭素化は、サプライチェーン全体に求められており、中小企業も含めて、全ての企業に影響がある。今後、①CO2排出量の算定、②CO2排出量の削減、③排出権取引・炭素税の活用などのステップが予想される。CO2排出量の削減では、技術・研究開発も必要となるが、木材や建材などの環境性能向上や森林育成など合板建材業界に関連する面も大きいと思う。

(3)ライフサイエンス(先端医療・創薬)
関西が強みを持っている有望な分野である。コロナ関連においても、この分野に取り組んでいる関西企業は多く、例えば、ワクチン開発、ワクチン製造受託、医療機器の製造、PCR検査キット・試薬、治療薬の開発・受託、ワクチン保管容器等々の分野での活躍が期待される。

(4)物価・賃金・労働生産性
現在、各国でインフレ圧力が高まっているが、一般に物価は各国における総需要と総供給の兼ね合いで決まる。この点、米国では、経済の回復から需要がコロナ前よりも大きく増加する一方で、供給が供給制約や人手不足で減少するとともに、価格も資源価格高や賃上げを受けて上昇し、需給がかなり引き締まって、物価が大幅に上昇している。そこで、米国は、金利を大幅に引き上げて、需要を抑制しようとしている。一方、日本では、需要は、感染拡大や行動制限の影響が緩和されつつあるもとで、漸くコロナ前の水準に戻りつつある一方、供給は、供給制約や資源価格高の影響はあるが、米国ほど人手不足や賃上げの影響がないことから、全体として米国ほど需給は引き締まっておらず、物価上昇も米国対比では低い状況にある。政策のかじ取りは難しいが、日本経済は、まだコロナ禍から十分に回復しきれていないので、米国のようなペースで金利を上げると景気回復が腰折れしてしまうリスクを抱えている。
日本銀行が目指しているのは、経済が成長し、企業が収益を上げ、賃金も上昇し、物価がある程度上昇しても、生活水準が維持できるという好循環である。そのためには、日本が先進国に比べて伸び悩んできた経済成長と賃金の上昇が重要となる。
経済成長率は、①イノベーション、②設備投資、③労働時間の伸びで決まる。人手不足が顕在化しつつある今、経済成長率を高めていくには人への投資と設備投資を如何に進められるかが大変重要となっている。

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