業界シリーズ『日はまた昇る』
大和桜井の巻=昭和22年4月=
戦後の桜井業界も相当の変化である。然し時代の寵児は矢張り波に乗っている。
〇先ず駅前の尾上亀市、当主は賢弟三人と共に召集中先代他界、賢弟一名戦死、愚兄賢弟三名生還再出発をしている。国定忠治のような男、材木屋には惜しい、奈良県知事にしたいと町の顔役五味清太郎氏が言う
〇大浦治茂。親父よりも息子に嘱目、長男治一、次男茂雄あり、瓜のつるに茄子もなる
〇角谷徳蔵、酒飲まず女にもてず交際下手で元地木社の名店長株と金儲けと政治好き
〇河村金次郎と角谷全亮両君は模範青年
〇杉垣新太郎、大和材界五人男の雄、豪腹な事は石井定七、気前は新門辰五郎、華麗な居邸落成し目下正面紅梅門の普請中、この門一つが三十万円
〇植田伊太郎、好きなものは愛妻きく子と商売、親分気分あり、終戦後一段と男を上げ、今や機首上昇雲を抜く勢い
〇谷奥信一、金も出来たし女も出来た、四十過ぎての浮気と七つさがりの雨は止みにくいとか申します、奥様ご用心
〇下出徳次郎、酒なくて何のおのれの桜井ぞ、アルコールの無いのが一番つらい
〇西垣愛太郎、昭和産業の社長で一万坪の工場主、大和第一の大親分、この男は名前と顔がつりあわぬ、人品骨柄まず相模屋誠五郎という所、国務大臣級の人物、好きな物は酒とアレ
〇帝国木材工業㈱は社長井上誠治郎氏、柴田順三氏もここで活躍
〇河村善次郎、東京下がりのシボ丸太、男前で秀才で君子で商売に抜け目がなく飛鳥少年学院の理事長さん、桜井業者の商売道徳の水準を高めたいのが御念願
〇大塚廣三郎、服部源内両老健在、富田宇市郎氏物故
〇桜井には太洋木材、三和木材、中井、平谷、西常、南、東、の製材所や木材商が現在百五十余軒あり、いずれも闇や日向で儲けている