業界シリーズ『日はまた昇る』
島之内の巻=昭和22年5月=
戦前の島之内は大阪目貫の中心で材木屋には縁の遠い町だったが終戦後にわかに御堂筋や宗右衛門町にまで業者が乗り出すようになった。然し市の復興が一段落をつけ、米材が入船しはじめたら又変貌する一時的な現象かもしれない。
〇先のことは先のこととしてまず四ツ橋の南詰から横堀川に沿うて南行する。北と南の炭屋町。
〇炭屋町の南詰は榎本宗助商店、紀伊日置の出身、温厚で手堅い人。以下店舗は皆新築ばかり也
〇御坊の下田製材所の出張所は岡田武夫氏で榎本に同居
〇大成木材商会はラワンで名高い瀬田憲太郎氏の経営で岡山県勝山に製材工場あり
〇東側の明粧な洋館は㈱船越工務店、日本一のタイルの専門店、兄は三生郎弟が敬四郎、両重役は島之内の生え抜き
〇丸和商会の西山武造氏は紀州和深の人
〇大善木材商行は鈴善の山本栄一氏が大陸帰りの腕の冴えを見せている。
〇丸五商店は吉野材が看板で羽根出身の林譲吉氏が主任也
〇日野八洲二商店は千島町からここに進出
〇御池橋東詰には土木建築山崎組の製材所あり工場長は同盟通信出身の大島文夫氏と言う眉目俊秀の好男子
〇清水橋には新興土木建築㈱、社長は愛媛県の佐々木新一という傑物なり
〇北陸工業㈱は福井県が本社で出張所長は取締役の小田繁次氏総務部長は島田金四郎氏、両氏共大阪府特高課の出身なれど腰の低い商人型
〇㈱菅野組は土建の新進で社長は菅野國助氏
〇太平木材工業所は石門がえりの井原政五郎氏が再生の意気で爆進、平六東と赤清が強力
〇元かしわ屋大豊の東隣には紀阪木材㈱のビルあり社長は萩原和一氏専務の村上重夫氏は10万人の山林労務者を乾分に持つ親分肌の熱血漢総務部長はハゲの阪植茂さん
〇新興木材工業㈱は大和の大淀町常務は下村只喜氏所長の山口敏行氏は爆弾男
〇斎藤材木店出張所あり
〇周防町には有木商店新築中
〇土木建築東組は工場だけ
〇御堂筋の八幡筋角には丸京興業(有)代表者は昭和の安珍と言われた色男、京竹の次男木下芳五郎で紳士なり
〇三菱銀行の4階には東京の松岡木材㈱の大阪支店、支店長は専務の坂井長治郎氏、大陸帰りで材界一の好男子
〇御堂巣筋ビルの関西興業㈱は富田林の尾崎清典氏が社長、木材課長は北川篤雄氏
〇大丸ビルの東洋木材㈱は資本金6千万円の日本工機の分身にて社長は谷田俊二郎という豪傑でやがては日本の木材界を咥えて振る気
〇南大阪木材集荷組合は今度日本林材㈱と改称した。貴多野三夫、吉田三亀雄両新鋭の舞台姿も鮮やかなり
〇同ビルに江商㈱の大所帯あり、木材課長中野秀次氏
〇大丸の北側は佐渡島金属㈱、木材部長は常務の吉尾竹一郎氏、島之内で生まれた商人型、太田課長に西村主任
〇心斎橋南詰には日新土木建材社あり、社長は岡村純一氏
〇近久ビルは團野産業黒シャツ親分由太郎の帷幕也
〇阪和木材㈱は井坂亨三、池田光治、小川勝二郎
〇堺の永重商店はここに同居
〇日東建設㈱は小林健男氏
〇日東製材木工所は大陸引揚の新人赤木正彦が代表者
〇鰻谷に新築中は南海興業㈱、紀洋の富永初造氏が引揚後再出発の本陣にて電話開通南二四六八番
〇金久商事㈱は大和五條の栗山雄次郎氏資本金二百万円、吉野材製材銘木樽丸類で福本淳三君が腕を振るう
〇大宝寺仲ノ町角に吉野木材㈱あり大阪営業所長は吉田三郎さん、女にもてる
〇大洋木材商会は久保田直平氏経営で足立しず江嬢という女事務員サービス満点
〇石原工業は大和下市が本社、大阪所長は金子堅治氏
〇東清水町の大和木粉木工所は五條の高尾立五郎経営で支店長は碓井正喜氏
〇玉屋町の島之内木工所は建材と製箱、浅野定雄氏や小倉勝兵衛氏らが民主的営業
〇堺筋の吉野合板商会は久保と言う偏屈で堅い男
〇花の宗右衛門町の丸三材木店は藤井奈良一が進出、所柄とて花籠に熊蜂の感じ
〇以上40軒で島之内の横堀川から堺筋までを一巡した